Special Feature
2024.04.11
デジタルは「嘘」じゃないと気付けた──nina初個展「AfterBirth」インタビュー
ドローイング:日記、あるいは「友達」のような存在
──作品についても伺っていきたいと思います。まずは、会場奥に配置されているドローイングについて教えてください。
今回の展示では、自分のパーソナルな部分を知ってもらいたいという思いがありました。なので、展示空間全体を「部屋」に見立てて、ドローイングをその一番奥に配置することにしました。そうすることで、展示空間全体を親密な雰囲気に包み込めるんじゃないかと思って。
ドローイング自体は日記のようにずっと描き溜めてきたもので、一番古いものだと2022年ごろに描いたものになります。普段はあまり見せることもないですし、結構瞬発的に出てくるものだったりもするので、根っこに一番近い部分を感じてもらえる作品になっているんじゃないかなと思います。
──展示用に描き下ろした作品もあるのでしょうか。
大きいサイズのものは描き下ろしです。展示するなら色がパキッと出る画材で描きたいと思ったので、鉛筆画の上にサインペンや筆ペンで線を乗せています。
あとは今回、ドローイングをスキャンして、デジタルでイラストを完成させるという手法を初めて試みました。全部デジタルだとコントロールできすぎてしまう部分もあるので、アナログな雑さを絵に取り入れるのも大事なのかなと。
──ドロドロとした液体のようなものが描かれている作品がいくつかありますが、これは何を描いたものなのでしょうか。
もともと自分の中で、悲しみとか怒りみたいな負の感情をビジュアル化したものとして、「膿のようなものが体から出てくる」というのがわりと自然な表現としてあったんです。ツノが生えていたり、ちょっと威嚇的にも見えたりするのも、そうした負の感情のあらわれかなと思います。身体の境界線が揺らぐような感覚を、アニメ的な表現に落とし込みたいという意識もありました。
──ドローイングに限らずですが、一貫して女性がモチーフになっていますね。
女性のポートレートは幼少期からずっと描き続けているんです。自分は昔から感情表現があまり上手じゃなくて、悲しい時とか怒った時には絵を描くことで感情を昇華してきました。自分の感情を表現するとなると、やっぱり自分と同じ女性の姿が一番自然なので、毎回女性を描いてしまいます。自画像ともまた違うんですが、「一番自分を理解してくれる友達」みたいな存在ですかね。
立体作品:自重にもがく少女像
──会場の中心には、天使のような羽が生えた少女の立像が配置されています。そもそも、立体作品を作ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
せっかく広い空間を使えるなら、立体作品も作ってみたいと思ったんです。前から興味があったので、いい機会だと思って。これまでにも何度か3Dを勉強しようとしたことはあったんですが、そのたびに挫折していたんです。
制作のプロセスとしては、まず造形師さんに私が描いたラフをお渡ししました。そこから3Dモデルを組んでもらい、ポージングを調整しつつ仕上げていって、最終的に3Dプリンターで出力してもらいました。その状態で私の元に届いて、そこから展示の直前に私が目を入れたり、汚しのペイントを施したりして仕上げていきました。
──モチーフについて教えてください。
ドローイングとも重なりますが、展示空間を「部屋」に見立てた時に、そこにひとりで暮らしている女の子がいた方がリアリティが出るだろうと思ったんです。部屋にひとりで居て、SNSとかいろんな情報に触れていくうちに、身体がどんどん重くなってしまった女の子。羽根もついているけど、それは飛べる羽根ではなく、むしろ重しになってしまっている。でも本人はそれに気付けていない。そんな様子を形にしました。
ドローイングと同じようにドロドロしたものがまとわりついていますが、こちらのドロドロは自身の内側から出てくるものというよりも、外からやってくるものというイメージです。メインはつるっとした女の子の存在感なんですが、ディテールは結構グロテスクにしたいと思っていて、そこはかなりいいバランスにできたんじゃないかなと思っています。
──実際に自分の絵が立体になった感想はいかがでしたか。
最初に手元に届いたときには本当に嬉しかったですね。その後、目を入れていく過程でどんどん自分のイラストに近づいていくのも、命が宿ったような感覚があって不思議でした。