Special Feature
2024.04.11
デジタルは「嘘」じゃないと気付けた──nina初個展「AfterBirth」インタビュー
グッズ:作品を身近に感じられる形式
──グッズにも力を入れられていたと伺いました。
私自身、美術館に行ったりするとグッズを買うことが多いんです。ポストカードを家に飾ったりとか、そういうのってすごく大事だなと思っていて。日常的に目に触れるので、展示を見た思い出がどんどん刷り込まれていく。私の作品を見に来てくれた人たちにも、そういう体験をしてもらいたいなと思ってグッズを作りました。
──特にお気に入りのグッズや、制作の思い出などがあれば教えてください。
どれも思い入れがあるんですが、スウェットの刺繍は特に気に入っています。もともと刺繍のTシャツとかが好きで、ドローイングを刺繍にしてみたらすごく面白いんじゃないかと思ったんです。ドロっとした質感とかもかなり精度高く出ていて満足しています。
あとは、レンチキュラーのステッカーにもこだわりました。見る角度で絵柄が切り替わるレンチキュラーの表現がもともと好きで、アニメーションとの相性も良いので、ぜひ作ってみたいなと思って。
シルクスカーフも気に入っています。もともと周りの友人から「シルクスカーフ作ってみなよ」と言われていて、今回やっと実現できたんです。60×60センチで結構大きいので、今回の絵をより身近に感じてもらえる形なのかなと思っています。
初個展を迎えて
──あらためて、今回の個展の感想をお聞かせください。
初めての個展ということで、最初はやっぱりすごく怖かったです。もともと芸大で美術を学んでいたこともあって、「展示の機会=教授から評価される場」というイメージで、緊張していました。でも、レセプションや展示初日に来てくださったお客さんの反応を見ていたら、ただただ楽しんでくれていて。それで安心したというか、楽しませることが一番なんだなとあらためて思いました。
──普段のクライアントワークとの違いはありましたか。
全然違いますね。クライアントワークは納品するまでが勝負で、正解不正解もわかりやすい。依頼に応えつつも、自分らしい要素を混ぜ込んでいくという作り方になります。
でも自主制作は、全部自分から出てくるもので作ることになるので、自由度は高いけどその分難しさもあります。まず最初に自分の深いところに潜っていって、描きたいことを見つける。次に、それをどう人に伝えていくかを考えるという工程になるので、「自分」を出す順序がクライアントワークと逆なんですよね。
──「作品を販売する」という経験も初めてだったと思います。作品が売れたとき、どんな気持ちになりましたか。
単純にすごくうれしかったです。油彩を3点描き上げた時には、「これも人の手に渡っちゃうんだ」と思ってすごく寂しかったんです。でも実際に買ってもらえると本当にうれしくて。普段は不特定多数の人が見る想定で絵を描いていますけど、「一点ものの絵を買ってもらう」というのは1対1のコミュニケーションなので、それが新鮮でした。
ジャンルの垣根を越える
──昨年11月にアーティストネームを「藍にいな」から「nina」へ変更されました。個展に向けて心機一転するという意図もあったのでしょうか。
いや、これにはまったく別の理由があって……もとの名字の「藍」をローマ字で書くと「AI」になるじゃないですか。今、AIイラストが物議を醸していたりもするので、今後海外での活動も行っていきたいと考えると、あまりよくないなと思っていて。
──なるほど、言われてみれば……。
でも名前を「nina」のみにしたことで、シンプルに自分の本名で勝負していこうという気持ちにはなりました。個展もあるし、いいタイミングだったと思います。
──今回、さまざまなジャンルの表現に挑戦されましたよね。あらためて感想はいかがでしたか。
先ほども言ったように、デジタルな表現だけを続けることへの違和感がずっとあったんです。作家としての軸を確立していく上でも、今回の個展は良い機会になったと思います。
あとは、「特定のジャンルのアーティスト」になりたくないという思いも活動初期から持っていました。だから、早い段階から自分の顔を出して活動してきたんです。作品だけを鑑賞するというよりは、自分という人間を知ってもらった上で、そこから生まれる作品を見てもらいたい。そう考えていたので、今回はその思いを体現できたのかなと。
──今後はどのようなことに挑戦してみたいですか。
自主制作の展示をもっとやっていきたいというのは、今回取り組んでみて強く感じました。大きな絵を描いたり、立体を作ってみたり、そういうことにはどんどん挑戦していきたいです。あとは、オリジナルで短編アニメーションも作りたいなと思っています。
もちろん、MVやアートワークも大事な活動の軸なので、これからも続けていくつもりです。クライアントワークと自主制作、どちらもやりたいことがたくさんあるので、両輪で活動していけたらと思います。
- Text by Tomoya Matsumoto
- AfterBirth photos by Ryo Yoshiya
- Artist photos by Ittetsu Matsuoka